― 『心魔師』についてお聞きしたいと思います。企画成立から監督をするまでのいきさつについて教えて下さい。

今野 東京藝大の同期に、張丹妮(チョウ・ダンニ)という中国出身の女性がいまして、修了制作『結城家の眠り』(2016)の編集など、何度か現場を共にしました。卒業後も、『バレンタインナイトメア』(2016)という監督作品で、僕が撮影も担当したのですけど、張さんが撮影助手についてくれました。それから、彼女は中国に戻って映像の制作会社で働き始めたのですが、何か一緒にやれたらいいねと言っていたんです。まずは予算をどのくらいに設定するかから始めて、企画内容よりも、その実現性を囲うところから始めました。張さんが会社を移ったりしつつ、1年半ぐらいしてこの企画がスタートしました。いくつか企画案を中国の会社の方で用意していただいて、その中から今回の原案を選んだという形です。

― 今村刑事は不眠症という設定ですが、それはどうしてですか?

今野 「眠り」は過去作でも何度か扱ってきた、大事なテーマです。僕にとって、「健康」は自由闊達に外を歩き回ることではなくて、場所はどこでもいいのですが、落ち着いて眠ること、そしてできれば自由闊達な夢を見ることです。今村の目的も「健康な眠り」であるわけですが、その場所を精神病院の病室に求めるという、倒錯した行動をとってしまう。それがこの物語の魅力でもあり、欠点です。本来、主人公というのはもっと明るい場所へ、元気に向かっていかなければならないと思うのですが。

― 劇中で童謡「メリーさんの羊」が使われているのはどうしてですか。

今野 眠れない時に羊の数を数える、というところから連想を始めました。あとはホラー要素として、呪いの歌や叫びが欲しいと思ったので。廊下の奥から何が聞こえてきたら怖いかということです。脚本を作るとき、よく連想ゲームをして遊びます。それから脚本の段階で、四コマ漫画も作りました。今村は鼠、夕子は羊です。汚い鼠が、牧場の柵を越えて羊に会いにいき、毛皮に包まれて眠るというシンプルな話にしたかったのですが、どうも複雑になってしまいます。

― 『心魔師』というタイトルについては。

今野 タイトルについては僕も中国側に何度か探りを入れたのですが、どうやら造語のようで、明確に意味はありません。皆さんも感覚的に捉えてくれれば(笑)。心の奥に「悪」を潜めた人間ということだと思うんですけれど。脚本の執筆期間中、行き詰まって日中に仮眠をしていたら夢を見ました。それは絶対に「考えてはいけない」ことだったんです。内容は覚えていないというか、覚えていたらいけないもので。目覚めた後、20分ぐらい痛む頭抱えてのたうちまわっていて。明らかな不道徳で、倫理に背いた、残虐な概念のようなものだったのだと思います。本来、平然と人間らしく生きているのですが、思いの外、人間ではない行動をとったり、志向してしまうことは簡単なのでないかと恐怖しました。タイトルに一番近付いたときだったと思います。自分たちのすぐ近いところにも「心魔」が待ち構えているわけです。

― 最後に、中国と共作してみてどうでしたか。

今野 中国のプロデューサーは凄く発想がフラットというか、凄く冒険心があふれているというか。僕は企画の始め、どうしても予算の中で話を考えてしまうんですけど、中国の人達は0から自由に考えてくれる。お前がやりたいならやればいいじゃないかという男気があり、凄く監督を尊重してくれる。もちろん最後には言葉の壁にぶつかるわけですが、作り手としてはすごくやりやすかったです。もう一つ、日本の映画をすごくリスペクトしているなと感じました。古いものから新しいものまで日本映画をたくさん見ているプロデューサーで。社長室には100本くらいの日本映画のDVDが並んでいましたし、日本に来たときもツタヤで映画を漁っていました。言葉の壁はありましたけど、映画を作るためにいろいろと意見を言い合うことにおいては何も壁はないというか。忌憚のない意見を言えたなという感じはしましたね。

 

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