― 谷役はオーディションで決まったと伺いました。

阿部 オーディションの時、今野監督や中国のプロデューサー・スタッフの方々が目の前にいたのですが、みなさんが何を良しと思っているかが全然読めないというか……。だから谷という役が決まったと聞いた時は、受かったという実感がありませんでした。眼鏡をかけて医者に見えるようにしたので、少しはイメージに近づけたのかなと思いましたけど。

― 女性からは結構人気だったという話を聞きました。

阿部 中国語でワーワー言っていたので、怒っているのかな?と思っていて、後から“阿部さんが格好いい”って言っていると聞いて、“えっ! あっちで受けるのかな俺”と色々考えちゃいましたね(笑)。谷先生ってとてもやりがいのある役ですよね。完成した映画を観たら意外と一番まともなのは谷だったんじゃないかという思いがしました。ただ単に自分の中の思い出を愛しているだけで。なんかそんな悪い奴に見えなくて、それは嬉しかったというか。「心魔師」って意味はわからないけど、僕の役も心魔師と言えるだろうって。そんなタイトルに出るような役をやりたいなと思いました。

― そうですか。谷が一番まともとは感じなかったんですが……。

阿部 それはそれで嬉しいです(笑)。

― 一見良い人のように見えながら、実は物凄い裏がある人間だと思うのですが。谷という役をどんなふうに演じられたのですか。

阿部 今野監督は役者に演技を任せるというよりは、自分の頭の中にイメージがあるようでしたので、わりと“こうやって欲しい!”というオーダーが多かったです。自分が試されて色々と何かを出すという感じではなかったですね。僕もどういう映画になるかは全然わからなかったし。

― そういった監督の演出についてはどう思いましたか。

阿部 完成した映画を観ないとわからないことって多いじゃないですか。上がりを観てびっくりしたというか。ここまで考えて始めからやっていたのか…凄いな、と。監督は現場の時は結構厳し目でかなり気合を感じました。僕はなんかやりたくなっちゃう悪い癖があって、ただパンを食べているとかでも、耳以外のところだけを食べていたんです。そしたら監督に「そういうのやめてください」って直ぐに言われてしまいました。

― 撮影で大変だったところはありましたか。

阿部 中国語のセリフが大変でした。撮影現場にいる中国人のスタッフのみなさんが優しく教えてくれたんですけど、一人一人出身が違うんですよ。中国でも地域が違うと発音が違うんですよね。中国語のアドバイザーの人が本場の発音を教えてくれていたんですけど、他のスタッフが匙加減を教えてくれて。中国語が理解できないので、そこに感情を乗っけるなんて出来ないっていうか。だから言っちゃ悪いですけど、嘘と言えば嘘。一応中国語で悲しいことを言っているので、気持ちとして悲しさを出すしかないっていう、そういったテクニック的な難しさはありました。

― 撮影中の楽しかった思い出はありますか。

阿部 僕は患者の皆さんと飲んだっていう時間がありまして、それが楽しかったです。曲者だらけだったので。

― 谷を演じるというのは楽しかったですか。

阿部 僕は役に共感したからといって、その役をうまく表現できているかは別だと思っているんです。気持ち悪いなと思っている方が、その役に見えている時もあると思うんです。映画として、いまだに僕は自分の芝居をこれでいいと思ったことあまりないんですけど。正直なところ、映画を観て「あっ」と驚くことがいっぱいあるんですよ、多分自分だからなんですけど。

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