― 早速ですが、この作品をご覧になって、生津さんご自身はどう思われましたか?

生津 この映画はジャンルでいうとホラーサスペンス系の作品ですよね。でも、色々な要素が詰まっていて、とても不思議な印象でした。しかも、果たして僕が演じた今村という男は実際に存在したんだろうかって思いまして。なんか、狐につままれた気分になりました。今村と夕子の関係にしても、これはどういう関係なんだろうっていう。全てがわかりやすく描かれているわけではないので、いろいろと考えさせられる映画だなと思いました。何度か見たんですけど、その度に印象が違って。何度も楽しめる作品だなとも思いました。

― 台本を読んだだけではわからないこともあったかと思いますが、現場で監督からの説明はありましたか?

生津 現場に入る前に一度お話しをさせて下さいとお願いをして、監督といろいろと話しました。監督も“うーん、どういうふうなのがいいんですかね”みたいなところがまだあった頃で。色々と今村のキャラクターや、参考になりそうな映画の話をしました。現場に入ってからは、監督は今村の動きのテンポにすごくこだわっていて、不眠症という設定なので「少しゆっくり、ぼんやりしたテンポで」と指示されることが多かったです。最初はどうしてもそれに慣れなくて、普通の感覚で動いちゃうと、「ちょっと速いです」ってなってしまって。最初の一日、二日は結構言われましたね。でもクランプアップの日、ただ歩くだけのシーンがあったんですけど、その時はテンポについて何も言われなかったので、“あー、一応いけたかな”って思いました。監督の中には今村像というのがかなり出来上がっていたので、僕はなんとかそれに応えられるようにと集中していました。例えば視線の動かし方とか、ガムの食べ方とか、動きに関してのこだわりが強かったので、そのあたりは特に集中していたと思います。

― 確かに今村はどこか気が抜けたような緩い動きでしたね。でも今村には、些細なことでもすぐに苛立ったり、非常に怒りっぽい一面も見られますよね。

生津 そうですね。やはり「不眠症」というのが一番大きい原因だと思います。実際それが人間にどういう作用を引き起こすものなのか僕もハッキリ分からないところはあったんですけど。今村には今村の理屈があるのは分かったんで。あとはもう、限られた撮影期間の中で、台本にあるシーンをとりこぼすこと無くクランクアップまでたどり着きたいというのが強かったので、集中して監督の意向に応えようという心構えでした。今観返してみると、もう少しいろいろ反応してもいいのかなと思ったりするところもありますけど。まあ、そうですね、今村は全体的にボーっとしてますね(笑)。

― 生津さんは今村役を演じられてみて、ここはちょっと違うんじゃないかとか、自分はこうやりたかった、などといったことはありましたか?

生津 う〜ん……どうでしょうね、不眠症に苦しんでいる部分がもっと強く出ちゃっても良かったかもしれませんけど。ただイライラしていて、眠くてということだけじゃなくて、どうにも抑制できない感情的な部分がどこかで出ちゃっても良かったかなとは思います。まあでも、映画をご覧になった人たちが、今村に対して、“ずっとこの人なんかイライラしているな”とか、“なんかボーッとしているな”というような印象を持ってもらえたら、それで良かったと思います。

― 柳憂怜さんが演じられた刑事・田島は、平気で今村を殴ったりと結構暴力的ですよね。それに対して今村はどう思っていたのでしょうか?

生津 これは柳さんご自身の人柄からくることかもしれないんですけど、今村は言葉遣いも態度もつっけんどんなのに柳さんの言うことだけはちゃんと聞いているんですよね。「来い」って言われたら行くし、殴られても歯向かわないし。二人には深い信頼関係があるんだなと思いました。最初に台本を読んだ時は、この役おっかない俳優さんがやるんだろうなぁと漠然と思ったんですけど。あぁ、柳さんがやるとこう見えるんだと思って、そのキャスティングセンスはさすがだなと思いました。

― 柳さんとご一緒されるシーンも多かったと思いますが、柳さんの印象はどうでしたか?

生津 素敵な方ですね。柳さんも僕もギターが好きで。ちょっと盛り上がりました。ゼマイティスっていうカッコイイギターがあるんですけど、柳さんは昔からすごい好きだったようで。でロックの話になって。僕はパンクが好きなので、アメリカのロックもいいけどやっぱりイギリスですよねみたいな話をしました。そんな楽しい話を撮影中にできたのはすごく印象的でした。ちなみに凄く値段が高いんですよ、そのゼマイティスっていうギターは。

― シリアスな題材を扱っているということで撮影中は皆さん結構シビアだったと思いますが、待ち時間などは出演者同士、比較的仲良くお話しされていたそうですね。

生津 そうですね、みなさん仲良く話していました。確かに映画を観るとそうは思えないかもしれないですね(笑)。柳さんとは本当にお話するのが楽しくて、「いい映画をやれてる、頑張ってください」って言われて、思わず「ありがとうございます!」って。この映画で描かれているような、あの感じではなかったです(笑)。

― では、今回の『心魔師』の撮影現場で印象に残っていること、また逆に大変なことなどありましたら教えてください。

生津 そうですね、“本当に?”って思われるかもしれないですけど、撮影中に大変だって思うことはほとんどなかったんですよね。ちゃんと寝る時間もありましたし。それとロケの宿泊先のお風呂場がすごく心地良かったんですよ。撮影が終わって、ひとっ風呂浴びて、ぐっすり寝て、朝一でバッと起きて「今日も行くぞ!」っていう、本当にありがたいぐらい良い環境でした。スタッフの方たちも皆さん良い人ばかりで、今回は日本と中国の方たちがいたので、スタッフさん同士言葉の壁とかあったかもしれないですけど、すごく良い感じでクランクアップまでいけたような気がしました。初日に中国の社長さんが捻挫しちゃったんですけど、冗談であれで全部厄が取れたとか言って(笑)。でもそれ以降皆さん本当に怪我もなかったですし。現場も日を追う毎にどんどんスムーズに進むようになっていって、ベテランのスタッフの方たちと若手がどんどん噛み合っていったというか。ご飯もすごく美味しかったです。こういう環境でできた映画が、沢山の人に楽しんでもらえたら最高だなって思ってましたね。あと、印象に残っていることは、特殊メイクですか。顔の半分だけしていたシーンがありまして。

― 特殊メイクをされていたんですか。

生津 僕はそれがすごく楽しみで。そしたら特殊メイク担当の新井さんに、「でも、一時間したらなんて言うかわかんないですよ」みたいなことを言われて(笑)。「えっ、そうなんですか、でもどうなるのかこれスッゲー楽しみですよ」とか最初のうちは言っていたんですけど...。片目しか見えないと、なんかだんだん疲れてくるんですよ。平衡感覚がうまく保てないからなのかもしれないですけど、両目つむっている方が楽だな〜みたいになってきて。まあ、いい経験でしたね。全然嫌ではなかったです。また機会あれば是非やりたいです。

― 実際はよく眠りながら、不眠症の役を演じられたのはさすがですね(笑)。

生津 いやいやいや、逆に申し訳ないですけど(笑)。ほんと、ごめんなさい。正確には覚えてないですけど、五時間とかは確実に寝てましたね。しっかり寝とかないともたないなっていうのがあったんで、あの環境にはほんと感謝でした。

― 監督の話によると、今村はネズミだとおっしゃっていましたが。

生津 そうですね、ネズミのモチーフっていうのはあったみたいです。映画の中にそれがどれだけ反映されているか、最終的にそのネズミというものは何だったのかっていうのは、観ているだけではわからないかもしれないですけど。クリスマスツリーのある家で、朝目が覚めて四つん這いで歩き出すシーンがあるんですが、その時監督が言ってました「ネズミです」って。

― 夕子役の真崎かれんさんとの共演場面も結構多かったと思いますが、彼女の印象はどうでしたか?

生津 本当に素敵な女優さんです。これは持ち上げるとかではなくて。役に対してとにかく真摯に向き合って、真っ正面から取り組んでいました。僕も同じ俳優として恥ずかしくないよう、頑張らないとって思いました。最後のシーンとかも、本当に全身全霊で真崎さんはやられていました。彼女のこの映画に対する姿勢は本当に素晴らしかったです。それでいて、撮影中以外は本当に気さくで、可愛らしいんですよね。まだ当時十代でしょ。確か真崎さんのお父さんが僕と同じくらいの歳なんですよ。そりゃあ可愛いですよね(笑)。

― 中国側の会社のオリジナルTシャツが気に入っていたようですね。

生津 真崎さんと「あれいいな〜」と言って、社長さんに頼んだら気持ち良くくれました。嬉しかったです。今日着てくればよかったなあ。俳優陣はバックプリントに「先鋒」って書いてあって、社長が「大将」なんですよ。プロデューサークラスの人達のには「中堅」って書いてある。みんな楽しんでるな〜っていう雰囲気がすごくあって。あの社長の人柄もすごく良かったですね。素敵な笑顔で。中国のスタッフの方たちはみんな楽しそうでした。あとそうだ、ファーストカットの鳥、あれは偶然なんですよね?

― あれは偶然らしいですね。

生津 撮影していたらたまたまあの鳥がいて、これ撮っておこうってなったって聞きました。あ、贈り物だと思いましたね。マジックが起こった!って(笑)。あのシーンがあるとないとでは全然違いますからね。この映画全体をいきなり語っちゃっている、そういう凄い画だと思いました。

― 療養所に入る時の高いフェンスだったり、夕子の部屋へ侵入する秘密の抜け道だったり、結構体を使った撮影が多かったと思いますが、きつくはなかったですか?

生津 そうですね、体的にはあんまりきついっていうのはなかったですけど、監督の指示するテンポ、スピードに合せて動くのが最初は難しかったです。高いフェンスを越えたり、四つん這いで歩いたりしましたが、いつもの心拍数ではなかったですね(笑)。あと、夕子を療養所から連れ出すシーンで彼女に長靴を履かせるんですが、結構上手くいかなかったですね。「もっと無骨に見えるようにやってください、荒っぽく。」という指示が出て。ちょっと丁寧過ぎたんですね。他にも、開いてる窓から部屋に忍び込む時のスピード、忍び込んでから体を起こすスピード等指示が全部あったので、体力的なことよりもそっちに気を使いました。ただ、小川さんはすごく大変そうなシーンがありました。

― カメラマンの小川さんですね。

生津 軒下を今村が這ってくるのを、カメラがトラックバックしながら撮影するシーンで、あの狭い空間でフレームの位置決めとかカメラのセッティングをするのがすごく大変そうでしたね。あのシーンは撮影部の方達すごく大変だったと思います。

― そんな今村が夕子に優しくする理由、今村の夕子に対する感情はどのようなものなのですか?

生津 “家族愛”っていうとちょっと違うかもしれないんですけど。僕は実体験としてあるんですが、“あの時期あの人と異様に仲良かったなぁ”っていうことが人生に何度かあって。みなさん経験ありませんか、そういうこと。多分その相手は、その時どうしても自分に必要な、もしくは自分に欠けている何かを持っている人だったという事だと思うんです。中国の方に撮影現場でインタビューされた時、「この二人の関係ってどういう関係だと思います?」と聞かれて同じような話をしました。恋愛かどうかということには、そんなに自覚的な二人ではないと思います。ただ、置かれている環境と育ってきた環境で、今村にしたら、何か助けてあげることができる存在があることで、かろうじてまともでいられるというか。夕子にしても、療養所から出たくてしょうがないという思いが無意識に強くあったはずで。それは単純な利害関係かもしれないけど、そこで二人がちょうどがっちり噛み合ったんだなっていう。きっと今村には、夕子に外の世界を見せなきゃいけないという想いが自然に生まれたんだと思います。それは愛とかっていう自覚的なものではなくて、むしろ本能的なものだったんだろうなって思います。だから今村が夕子に会いに行くのは、情報収集と薬という大きな目的はあるんですけど、どこかでほっとけないっていう気持ちがあったからだと思います。夕子になにか起こったら俺が行かなきゃっていうのは、いつの間にかすごく芽生えていました(笑)。まあ、凄く微妙で曖昧な関係ですよね。だからこそ最後、本当に今村って存在してたのかなと思っちゃったのかもしれないですね。

― 今村と夕子との会話で、「外には見るものがたくさんある。綺麗なもの、美味しいものもたくさんある。夢だって見られる。なりたいものにもなれる」というのがあると思いますが、このセリフにすごくリアルなものを感じるというか、すごくいいセリフに聞こえるんですよね。

生津 そうですね。僕、初めて「夕子の部屋ここですよ」って見せてもらった時、もう居たたまれなくて。「ずっとこんなところで暮らしてたの?!」 って(笑)。鉄格子まで付いていて。自分(今村)も眠れなくてボロボロの生活をしてるんですけど、それでも「いやぁこれはねえだろ」って思うぐらい。それでまた、そこにいるのがあの真崎さんみたいな雰囲気の、“いい子”ですからね。

― 最後にこの作品への思い、こんなところを是非観て下さいといったことをお聞かせください。

生津 やはり、人ってどこかで他人を必ず求めていて、それが意識的であれ、無意識であれ、そういう人と一緒に時間を過ごすことはとても大切なことだなと思いました。それは、今村にとっては夕子、夕子にとっては今村。決して恋愛とか家族愛とかではないけれど、そういう存在が近くにいることによって、人間は、“ああ生きていけるんだな”っていう事を演じながらすごく感じました。ご覧頂いた皆様にとっても、そんな身近な人の存在や、人間の心が巻き起こす無限の作用について思いを馳せるきっかけになればと思っています。

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